風子のその後2掃除を終えた風子の部屋には、まるで空気までが新しくなったような清々しさが漂っていた。 机の上にはノートとペン、壁にはK-POPのポスター。 そして、窓辺には一輪のガーベラ。母がこっそり飾ってくれた花だった。 翌日、風子は久しぶりにダンススクールの扉をくぐった。 先生も仲間たちも、彼女の復帰を驚きつつも温かく迎えてくれた。 風子は合宿の間に身につけた新しいスタイルを披露し、その進化ぶりに周囲を感心させた。 「ねえ風子、次のK-POPサバイバル番組の情報、もう知ってる?」 休憩時間、後輩の茜がスマホを見せてくる。 「来月から募集開始だって。しかも、今回は“グローバル志望者限定”で、日本人の参加も大歓迎なんだって!」 風子は思わずその画面を凝視した。 目の前の光景が滲んで見える。 胸の奥で、何かが確かに再び燃え上がった。 夜、家に帰った風子は、いつもより少しだけ真剣な顔で母に言った。 「お母さん、私…もう一度挑戦してみたい。今度こそ、私のすべてをかけてみる。」 母は驚きもせず、静かにお茶をすすって言った。 「そう思うならやってごらん。でも、今回は“運命”じゃなくて、“戦略”も大事にしなさい。」 「戦略…?」 「そう。本気で勝ちに行くなら、自分の魅力をどう伝えるか、どう評価されるか、分析も大事だよ。今までの経験は、全部そのためにあったんだから。」 風子はうなずいた。 もう感情だけでは動かない。 夢はただ願うものじゃない。 掴みに行くものだ。 冷静さと情熱、両方を持って進む。そんな自分になれた気がした。 そして1か月後。風子は、再び韓国へ向かう飛行機の中にいた。 今度はただの夢追い人ではない。 自分の限界を知った上で、そこを超える覚悟を持った挑戦者として。 彼女の目は、はっきりとした光を宿していた。 “風のように自由に、でも今度は、風のように強く。” 彼女の新しい物語が、ここから始まろうとしていた。 再び韓国に降り立った風子は、新しい自分を試す舞台に足を踏み入れた。 今回のオーディションは、各国から集まった練習生たちとチームを組み、課題をこなしていく形式。 前回よりもさらに厳しいルール。 しかし風子は、前よりずっと落ち着いていた。 周りの視線にも、ファンの評価にも、自分なりの向き合い方を見つけられていたから。 その日、チーム分けの発表があり、風子は4人チームの一員として、ある男性練習生と初めて顔を合わせた。 「Hi、フーコ?オレ、ジフン。よろしく。」 彼は韓国の人気事務所の練習生で、端正な顔立ちに、柔らかい笑顔を持っていた。 物腰がやさしく、だけどパフォーマンスは誰よりもキレがあり、風子は初めて見たその瞬間、心の奥に何かがふわりと灯った気がした。 練習初日、言葉の壁はあったが、ジフンは驚くほど気さくに日本語を混ぜながら話しかけてきた。 「フーコ、昨日のターン、すごくキレイだった。オレ、ちょっと見とれてた。」 「え、やめてよ、からかわないでよ!」 「本当だよ。…でも、少しつらそうな顔してた。前の大会、キツかった?」 風子は一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに苦笑いを浮かべた。 「…見てたの?」 「うん。映像で。でも、それ見て思った。落ちても、あきらめないってすごいなって。…オレ、あの時の君、好きだったよ。」 「え?」 「いや、尊敬してるって意味。あ、うん、そういうこと。」 ジフンが少し赤くなったのを見て、風子はふっと笑った。 こんなふうに誰かと話すのは、久しぶりだった。 心の奥の冷えた部分が、少しだけ温かくなるような感覚。 その後も風子とジフンは、練習を通して次第に信頼を深めていった。 ジフンは決して前に出すぎず、でも誰かが困っていればすぐにフォローに回る、まるで空気のような優しさを持っていた。 そして時折、風子だけに向ける視線があって??それが、何かを伝えようとしていることにも、風子は気づき始めていた。 ある夜、練習後のスタジオ。みんなが帰った後、ひとりで残っていた風子の背後から、ジフンが声をかけた。 「フーコ、今日の練習、見てたよ。……すごくよかった。」 「ありがとう。でも、まだ自信ないんだ。投票とか…、やっぱり不安で。」 ジフンは少しだけ考えて、そしてポケットから小さな紙を取り出した。 「オレのお守り。小さいころから大事にしてたやつ。…でも今、一番大事なのは、フーコが笑ってることかも。」 手渡されたのは、折り鶴だった。 韓国でもあまり見ない、日本式の繊細な鶴。きっとジフンが風子のために調べて、折ったのだろう。 その夜、風子は寮の部屋のベッドで、鶴を胸に抱いて眠った。 まだこれは“恋”と呼べるほどのものではないかもしれない。 でも確かに、胸の奥に芽生え始めた何かがあった。 夢に向かって走る中で、誰かと心を通わせる奇跡。 それは、風のように予測できず、でも確かに、風子の世界を少し変えようとしていた。 |